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岡山地方裁判所 昭和48年(む)310号 決定

申立人 谷川正彦

主文

司法警察員吉原喜美信が、昭和四八年六月二八日、岡山野田屋町一丁目三番三号岡ビル百貨店一階の谷川正彦の経営する谷川商店店舗においてなした別紙記載の物件に対する差押処分は、これを取消す。

理由

一、代理人は主文同旨の裁判を求め、その理由として、要するに、差押さえた物件は被疑事実と関係がなく本件差押処分は違法である旨主張する。

二、当裁判所の判断

一件記録によれば

1、昭和四八年六月二五日司法警察員高橋孝人は松下昇に対する犯人隠避被疑事件に関し岡山市野田屋町一丁目三番三号株式会社岡ビル百貨店一階の申立人が経営する谷川商店店舗で捜索差押をなすため浦和地方裁判所裁判官に対して許可状の発布を求めたところ、同裁判所裁判官菊池光紘は同日右請求に応じて許可状を発布し、司法警察員吉原喜美信は同月二八日右申立人店舗で捜索をなし、申立人所有の別紙記載のとおりの物件を差押さえたこと、

2、本件捜索差押許可状発布の前提となつた松下昇に対する被疑事実の要旨は、松下昇は、強盗予備被疑事件の被疑者竹本信弘(京都大学経済学部助手)に対し逮捕状が発布され、警察により指名手配されているものであることを知りながら、同人の発見逮捕を免れさせるため、同人の分限処分の審査に関し、同人の同大学評議会に対する申述のため逃走中の同人と連絡をとり、右申述に必要な同人からの資料を受理し、昭和四八年二月二二日以降数回にわたつて右評議会に右申述のため申入れまたは照会をする等し、もつて犯人を隠避せしめたというものであること、

3、本件捜索差押許可状には「本件に関係ある手帳、住所録、メモ、領収書(その他は省略する)等」が差押さえるべき物として特定されていること

が認められる。

次に、一件記録、当裁判所の取調べた資料、別紙記載の物件の謄本を総合して検討するに、申立人は岡山市野田屋町一丁目三番三号岡ビル百貨店一階で谷川商店を経営するかたわら、森永砒素ミルク中毒事件に関し「森永告発」岡山事務局代表者、岡山救援連絡センター運営委員として市民運動に従事している者であることが認められるが、「森永告発」岡山事務局、岡山救援連絡センターが松下昇の本件被疑事実の内容たる活動と関連のある活動をしているとは認められないところ、別紙記載の手帳は申立人の営業および市民運動に関する商品、出版物等の注文、仕入れ、入金等の控え、行動予定等を記載したもの、同じく電話番号簿は営業および市民運動に関する電話番号をそれぞれ記載したもの、同じく払込通知書は岡山救援連絡センター宛送金のあつた事実を証明するもの、同じくメモ七枚は「森永告発」関係の連絡、受注メモであつて、それらの記載内容等からしても別紙記載の物件はいずれも松下昇に対する前記被疑事実と関係があるとは認め難く、右の各物件を「本件に関係ある」物として差押さえることは許されないものというべきである。

三、よつて司法警察員吉原喜美信が昭和四八年六月二八日谷川商店店舗でなした別紙記載の物件に対する差押処分は違法であり、代理人の本件申立は理由があるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。

(別紙略)

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